後編

夢はサイボーグ。医療機器の開発にも関与。

第81回放送

株式会社小林製作所 専務取締役

小林靖弘さん

Profile

こばやし・やすひろ/1983年、石川県金沢市生まれ。金沢大学附属高等学校を卒業後、慶應義塾大学理工学部、慶應義塾大学大学院理学研究科を卒業。2009年、『アクセンチュア株式会社』に入社、戦略コンサルティングチームに所属し、国や通信大手、大手電機メーカー、製薬企業などの経営改革に従事。その後、大手IT企業の事業企画に参画、海外SNSなどの日本展開を担当後、起業も。2013年、『株式会社小林製作所』(創業は1919年。金属加工業、精密薄物板金において県内トップ。経済産業省の「地域未来牽引企業」にも認定されている)取締役に就任、2018年より現職。

インタビュー前編はこちら

Tad 今回のゲストは、前回に引き続きまして『株式会社小林製作所』専務取締役、小林靖弘さんです。前回は『株式会社小林製作所』の現在の精密板金という事業の内容や、どんなものを作っているのかを聞いてきたわけなのですが、会社のプロフィールにもあった経済産業省の「地域未来牽引企業」ですとか、そのほかに「石川ブランド優秀新製品賞」、「金沢市ITビジネス大賞」、経済産業省の「中部IT経営力大賞」、「経済産業大臣賞」などいろいろ賞を獲られていますよね。中でもITというキーワードが目立っているようですが、これは『株式会社小林製作所』のどういったところを評価していただいているのでしょうか?
小林 現社長がすごいプログラマーで、学生時代からパソコンが好きで好きでしかたがなくて、そんな現社長が会社に戻ってきた時にあまりにも「非効率」と思ったらしく、それでいろいろなソフトウェアを探したのですが、いいものがなかったんです。板金はニッチなのでまともなものがなくて、自分が作ったほうがいいということで、20年前から社長自ら、ありとあらゆる業務ソフトウェアを作ってきました。会計システム、人事、工場内などいたるところにパソコンやスマートフォンなどIoTのセンサーなどが隅々まで張り巡らされています。そういったところが西村経済再生担当大臣やいろいろな方々が面白いと思ってくれて、IT化が進んだ会社だとお褒めいただいているという状況です。
Tad 現社長は小林靖典さん。小林靖弘さんのお父様で、三代目でいらっしゃるんですね。
小林 はい。現場はパソコンってそもそも何かわからなくて、いったいうちの社長は何を言っているんだと理解は得られなかったようです。ただ意外にも大きな反発はそんなになく、製造業でITを導入する時はいろいろなことが実際に楽になるので、よくわからないが好んで使っているという状況になるんです。周りからすれば「なんだかわからないが、これはいい」くらいにしか思っていなかったと思います。
Tad そんな中で受賞している「石川ブランド優秀新製品賞」というのは、『株式会社小林製作所』で出したITの新製品ということですか?
小林 そうです。これからの当社において大事なことなのですが、当社は新規事業に力を入れていて、その柱はITなんです。いろいろな製造業の皆様が、うちの商品を使って楽になれるようなサービスや商品を作っています。
Tad 自社向けに作ったIT製品なんだけど、ほかにも必要としているお客様はいるだろうと。
小林 結構うちで使っている製品を欲しいと言ってくれるお客様は多いです。色々なプロダクトを作って、次の事業の要にしようと考えています。中でもカメラシステムというものが売れておりまして、これは色々な製造現場にカメラを取り付けてその映像データを元に製造現場の改善やトレーサビリティを実現しようというコンセプトです。こういうカテゴリーのカメラシステムは世界でも当社しか出していないオンリーワンだと思います。
高まるニーズに応え、力を注いでいくITソリューション事業。
Tad 製造現場の監視カメラというのはありますが。
小林 工場の出入り口に監視カメラをつけるのは一般的にはありますが、そういうことではなく、工場の中のノウハウが大事な分野、トラブルが多く起こる部分を常に記録し続け、モノづくりに生かすという分析がたくさんできるカメラになっています。独自特許を持っているというのもありますが、類を見ない製品のため、ヒットしているんです。
原田 原因を突き止め、それをよくしていくために役立てるということですか?
小林 そうです。工場は全然IT化が進んでなくて何か問題が起こるとみんな「名探偵コナン」のように推理し始めます。管理職が集まって一生懸命、場合によっては一週間くらいかけて、どの会社も現場を推理するんです。そういうのは映像があれば一発でわかるんです。
原田 そうですよね、ここだっていうのが見てわかりますもんね。
小林 語りきれないくらいすごくいい波及効果がたくさんあり、そういうのが評価されて最近では大手の車や重工業の会社で導入していただいています。こんなに素晴らしく、かゆいところに手が届く商品はないと評価していただいています。
Tad これもやはり小林靖典社長がつくられているのですか。
小林 そうですね。現社長がプロトタイプを作りまして、私が担当している開発部にプログラマーが6、7人いるので、ブラッシュアップして商品化しています。
Tad なるほど。企業・そして工場の中のIT化というところを自ら作り出し、売り物にしてきたというお話ですが、小林靖弘さんとしてはこの先『株式会社小林製作所』でチャレンジしたいことや取り組みたいことってありますか?
小林 たくさんありますが、IT化といってもまだまだ次の商品について言いたいけど言えないというところがあるのですが、とにかく「これは売れるだろう」というソフトウェアをいっぱい出していきたいと思っています。あとは、医療にも力を入れたい。医学系には注力していきたいです。
原田 ご自身も大学は医学研究科を卒業されていますしね。
小林 個人の強い思いばかりで、社内でもそのことを考えているのは私くらいしかいないと思います。医学系の医療機器の会社になっていきたいという気持ちは持っています。
Tad 医療機器はたくさんありますが、特に注目しているものはありますか?
小林 今は縁のあるお仕事を手広くやっていて、言えない話が多くて申し訳ないのですが、大学発ベンチャーの画期的な装置であるとか、とある人工臓器の部品製造をアメリカの会社から受注しています。医療機器と言っても本当に幅広いんです。そんな幅広い領域で設計や製造に現在取り組ませてもらっています。
原田 医療がどんどん進歩していく中で、それに応じたものは絶対必要になってきますもんね。
小林 そうですね。究極的には、人間はどんどんサイボーグになっていくと考えています。
原田 サイボーグ!?
小林 例えばですが、人口関節を入れる人って昔は全然いなかったけれど、今は結構多いですよね。カテーテルを入れている方や、透析装置、人工心臓、人工肺・・・エクモも、いうなればサイボーグ的だと思います。町工場というのは昔から福祉事業には結構携わっているものです。福祉って、一人ひとり求めるものが全然違いますよね。例えば義手や義足をとっても、速く走りたい人は速く走れる義足がほしいし、一方で丈夫さが大事とか、軽いものがいい人はアルミやチタンで義足を作りたい、といったように。そういうことは町工場がやることが多く、サイボーグというのは極端な表現かもしれないですが、例えばどんどん義手や義足などは、今まで以上に高度化していくし、より人の手足に近いものになっていくと思うんです。そういうものを一人ひとりにカスタマイズするというのは日本の中小企業の代表的な役割だと思っていて、そういったところでトップランナーになれる企業でありたいです。
Tad なるほど。義手や義足、人工心肺といった代替臓器も含めて、どんどん体に機械やコンピュータを含むマシンが組み合わさっていくという未来をイメージされているわけですね。
小林 そうです。サンフランシスコでイーロン・マスクが起こしたベンチャー企業『ニューラリンク』では、ALSやパーキンソン病などで動けなくなってしまった患者さんの脳に、簡単な手術で小さな穴を開けてある装置を取り付けると、念じることでコンピュータを動かすことができるというものを開発しています。実証実験に入るくらいですから、あと数年で実現します。そうなると一気に幅が広がると思います。別に手や足だけの話ではなく、極端な話、心臓や肺に障害が起こっても機械が代替えできる時代が近いと思います。未来的な話かもしれないですが、確実にそんな時代に入ってきています。そういったことができる会社にしたい。私、実は夢があって、それは「不老不死」なんです。
『小林製作所』の普段の会議の様子。フランクに社員と意見を交わす小林専務。
Tad 不老不死!?
小林 「不老不死」を実現させたくて、慶応大学の理工学部に入ったんです。「僕は不老不死でありたい」とずっと周りに言い続けていて、不老不死であるためには化学や医学のアプローチだけでは限界があるんです。35億年の歴史を積み重ねてできた美しい化学と生化学のハーモニーを紐解いてハックしていくのはとても大変です。それも大事ですが、それと同時に新しい機械に少しずつ入れ替えていかなければ実現できないと思っています。あとは今後の産業を考えたときに、カスタマイズされる医療機器がどんどん出てきますから、まだまだ遠いことですが、一生懸命、今、医療機器の製造や開発を引き受けているというわけです。
Tad 「念じただけでスマートフォンを操作できたり、脳がネットワークに繋がったり、そういった未来は本当に来るかもしれません。そうなると、一人ひとりにカスタマイズしなくてはなりませんし、町工場の出番ではないかと思います。
原田 「町工場」と私たちが思っているものの概念を超えていくようですね。

ゲストが選んだ今回の一曲

Mr.Children

「終わりなき旅」

「医学研究をしていた時代の友人が若くして亡くなりました。きらきらと明るく輝いている人で、亡くなった時にはそいつの分まで自分が頑張ろうという気持ちになり、世の中の病気で苦しむ人のために何か革命的なことをやりたいと思いました。非常に険しくて、くじけそうになることしかない毎日ですが、この曲は自分の背中を押してくれる人生のテーマソングです」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回のゲストは前回に引き続き、『株式会社小林製作所』専務取締役、小林靖弘さんにお越しいただきましたが、いかがでしたでしょうか。
原田 そうですね、お父様のソフトウェア開発にしても、小林さんご自身の医療機器開発への思いにしても、時代に合わせるということを超えて、時代を次へ進めていこうという思いを持ってお仕事をされていることが伝わりました。
Tad まさにそうですよね。「インダストリー4.0」という言葉があります。モノづくりの工程やビジネスのプロセス自体をネットワークに繋げて、効率化したり新しい価値を生み出したりする産業や工業の目指すべき価値を意味しますが、今、小林さんのお父様が製造現場にコンピュータを持ち込んで効率化したというのは「インダストリー4.0」をかなり早く、先取りされたということになります。経済産業省の方や大臣が見学に多数来られたのは納得でした。先端を行くモデルケース企業だからだと思います。また、小林さんが見ている未来として、機械やコンピュータといった道具が体の一部になるという究極の未来がすぐそこに来ているというビジョンを聞かせていただきましたが、『株式会社小林製作所』や小林家にとってのこれまでの四百年に渡る生業、あるいは、お父様が時代を先取りして作られた大きな変化が示してきたように、この先の『株式会社小林製作所』はもしかすると全然違う会社に変化していくのではないかと思いました。

読むラジオ一覧へ