前編

発想力と忍耐強さで、ダンボール業界に革命を起こす。

第38回放送

株式会社ダンボールワン 代表取締役社長

辻 俊宏さん

Profile

つじ・としひろ/1983年、石川県七尾市生まれ。2002年、短大在学中に『有限会社SSC』を設立、代表取締役に就任。2005年、サラリーマンを経験したいと思い、ハローワークでたまたま見つけた『能登紙器株式会社』(創業は1978年。後の『株式会社ダンボールワン』)に入社、ネット通販事業を立ち上げる。2016年、『株式会社ダンボールワン』(ダンボール、梱包材の製造・販売。2005年より通販サイト開設)代表取締役社長に就任。
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Tad 今回のゲストは『株式会社ダンボールワン』代表取締役社長、辻 俊宏さんです。辻さんとは、石川県の高校生に配られるDVDで共演、というわけではないですが、一緒に同じDVDに登場したということで、私も高校生と一緒に映像を見まして、この方のお話をぜひお聞ききしないと、番組にお呼びしないと、と思いまして。『株式会社ダンボールワン』、もしかしたら原田さんはご存じなかったですか?
原田 存じ上げませんでした。ビジネス界隈ではかなり知られていると思いますが、どんな会社なんでしょうか?
我々が製造・販売しているものは、社名の通り、ダンボールです。今はインターネットで、日本全国10万社からダンボールをご注文いただいています。
Tad 10万社ですか!
原田 すごい。
日本各地からたくさん注文が来るってことは、例えば金箔入りだとか「何か特殊なダンボールを売っているんでしょ?」とよく聞かれるんですが、売っているものは、スーパーマーケットやドラッグストアでタダで手に入るもの、それをインターネットでたくさん販売しています。
原田 なるほどね。たしかに「もうちょっと小さいのがいいのに」とか「もうちょっと数があったらいいのに」って思うこと、あるんですよ。そういう時、ちょっと頼れるところってないですよね。スーパーに行ってもそのサイズがあるとは限らないし。
一般の方には、「タダで手に入るものが、なぜインターネットで売れるのか」と、わりとよく聞かれるんですが、今回はその辺も含めご紹介させていただこうと思います。
Tad ダンボールのネット販売でいうと10万社と今、言われましたが、国内でいうとトップシェアだと思います。
原田 そうなんですね。そんな会社が七尾にあったんだと、私も本当にびっくりしました。
Tad 販売されているものは、普通のダンボールなんですよね?
もう本当に、その辺に転がっているようなダンボールですね。
Tad 何が違うんですか?
創業当時から普通のダンボールを売っているんですが、何が違うかといいますと、主に4つあります。まずひとつが短納期。つまり、早く届けることができます。例えば、ぴったりのサイズのダンボールが欲しい場合、近場のダンボール屋さんで企業がお願いするとなるとだいたい注文してから一週間くらいかかるんですが、当社の場合は、例えば今日の13時までのご注文でその日のうちに作って、明日にはほぼ日本全国にお届けします。
Tad 13時までに頼めば翌日には届いている?
しかも好みのサイズで。
原田 それは早いですね。
その日のうちに作ってその日のうちに出荷するということです。
原田 作って送るんですか? そんなことできるんですか?
ダンボールの短納期を実現している、製造現場の様子。
短納期、つまり速さ・スピードと、企画力ですね。例えば「広告入りダンボール」というものを売っているんです。僕ら「ダンボールワン」の広告です。みんなが買うわけではないんですが、うちの広告が入っているものは1円、2円ほどお安く販売しています。駅前でもらうポケットティッシュなんかをイメージしてもらえばわかると思うんですが、あれはなんでタダでもらえるかというと、裏に企業の広告が入っているわけです。その「ダンボール版」をやっていると思っていただければ。
Tad 届いたダンボールを見ると「ダンボールワン」と入っているから、それで荷物を送ってもらった人がダンボールを発注するときにも「ダンボールワン」を使おうと思ってもらえると。
はい。そういう企画力ですね。
「ダンボールワン」の広告を掲載したダンボール。
原田 他の会社ではそういうことをやっていなかったわけですよね。
そうですね。ポケットティッシュをヒントにしてそれを始めました。
原田 なるほど。
Tad 勝手に広がってくれますもんね。
そうなんですよ。
Tad お客さんが送った先で「ダンボールワン」の名前がどんどん広がっていくわけですから。
梱包する方も梱包するたびに「ダンボールワン」、「ダンボールワン」と…
原田 刷り込まれていくんですね。
そしてそれを受け取った方も、ここの会社は「ダンボールワン」のダンボールを使っているんだと。またそれが再利用されて、どこかで同じように…。我々にとっても認知度をアップできますし、お客様にとっても低価格で利用できるということで、win-winな企画ですね。あとは、小ロット対応です。例えばダンボールを作りたいとすると、メーカーさんには1回で500箱、1000箱くらいの数をオーダーしないと作ってもらえないんですよね。そこを、我々の場合は1箱から対応しています。
原田 例えばネットでフリーマーケットみたいなものをやっている方なんかが個人で注文することも結構あるということですか?
はい、おっしゃる通りです。
原田 1箱から注文できるんですか。それは他になかなかない。
そうですね。なかなかできないことだと思います。
Tad 最後の4点目は?
最後は、ITですね。インターネット。インターネットで簡単に24時間365日購入できるというのが、これが我々にとっては一番、差別化できている部分ですね。
さまざまな種類のダンボールが1枚から購入できる「ダンボールワン」の公式サイト。
Tad オンラインの販売というのも、それまではあんまりなかったんですか?
そうですね。当時私たちがやっていた時というのは、ダンボールのオンライン販売はあんまりなかったですね。
Tad 「ダンボールワン」というサービス自体は辻さんが作られたというふうに聞いているんですが、前身の『能登紙器株式会社』がそういう事業をされていたわけではなくて、辻さんが『能登紙器株式会社』に入社された後に、こういうサービスを作りたいということで始められたんですよね?
そうですね。入社させていただいてから数か月でホームページを作って販売をスタートしました。
Tad この4点の強みがあれば、さぞかし立ち上げ直後は売れたのかなと思うんですけれども…
それがですね…。思い出すと胃が痛くなるんですが、今、コロナの影響で通販を始められたという方は結構いらっしゃると思うんですが、始めると、思ったよりもすぐにはなかなか注文は来なくて、最初の半年間は売り上げが7000円しかなかったり。1件しかご注文がなかったですね。
原田 え、単位は7000「円」ですか?
7000「円」です。7000「件」ではなくて7000円です。
原田 7000円ですか…
半年間で。
原田 そうでしたか。そうすると社内の方もちょっと不安になってきますよね。
元々今の会社には、ハローワーク経由で入社したんです。ハローワークでたまたま見つけて、入社する時に、さっきプロフィールでもご紹介いただいたように、19歳からIT社長をやっていて、「ということは、ホームページを作ったらドカーンと注文が増えるんじゃないの?」と周りからはすごく…。
Tad 期待されていたんですね。
はい。「19才でITベンチャーを立ち上げたスーパースターが『能登紙器株式会社』に入社したよ」って、周りからはものすごく期待たっぷりで見られたわけです。僕もまんざらではなかったんですけれど。「やれるぞ、これはやるぞ」と、やったはいいけど半年で1件…。そうすると周りはざわつくんですよね。「あの人ってパソコンでいつも何やってんの?」と。ちなみに当時、まだパソコンがなかった時代なんですよ。パソコンもなくてすごくアナログな会社だったんで「パソコンばっかり見て仕事来るの?」って言われて。座っていないで飛び込み営業いけよとか。一番僕の中で胃が痛くなったのが、「あの子、本当に大物なの?」みたいな…。
原田 前評判が…。
Tad 期待がかかっていただけに。
短大在学中にITベンチャーを起業した経験もある辻社長。写真は短大生の頃。
それで見事にプライドも何もかも、すべてこてんぱんにやられましたね。
原田 でもそこからの今があるのは、何かすごい打開策があったと?
そうですね、まず気持ちとして見返したいなと。負けたくないなと思いまして、平日は深夜まで、飛び込み営業をした後に17時からインターネット通販の勉強をして、休日は東京とか大阪でITで成功している人の話を聞きに行くというような感じでした。
Tad 何かきっかけをつかんで、今はシェア1位になられたんですよね。どうやって売り上げが上がっていったんですか?
とりあえず、まずはいろんなことに、失敗しながらもたくさん挑戦して、新しいことをどんどん始めました。例えばダンボールって、通常の業界の常識ではお客様からご注文いただいたサイズの形式を作って、そのサイズのダンボールを納めるというものだったんです。今だったら大手の通販会社さんとかで規格サイズの既製のダンボールが販売されていますが、当時そういった既製のダンボールって販売されていなくて、そういうのをいち早く我々の方で作って、小ロットから販売したりだとか、そういったことを積み重ねまして、徐々に売り上げが上がった感じですね。
Tad ゼロから1を立ち上げる、そういう人物なんだなと思って聞いていますが、辻さんって幼少期はどんな人物だったんですか?
今の事業内容とかやってきたことを聞いた人には、「結局、やっぱりエリートなんでしょ」、「三谷社長みたいにエリートなんでしょ」、「すごく優秀なんでしょ」って言われるんですけど、実際は、小学校から全然勉強ができなくて、高校に上がってもテストで0点を連発してとってしまうぐらいでした。しかも高校もぎりぎり卒業できたくらいで、あんまり学校も行かない、「よろしくない学校生活」を送って、勉強せずにゲームばっかりしていましたね。
Tad それは僕も一緒ですけどね。
原田 共通点が! そうなんですね。でもそんな中でも、やっぱり社長になりたいっていう夢を抱いて、短大時代も頑張られたわけですよね。
いや、でも短大時代も前半はゲームばっかりしていましたね。1日に19時間くらいゲームしていました。
原田 24時間のうちの19時間ですよね?
正確に言うと19時間半、毎日やっていましたね。
Tad もうオンラインの方がリアルというような?
そこに僕のリアルがありましたね。
原田 なるほど。そこからの今があるというのは、ご自身でも振り返ってみてちょっと不思議な感じがしませんか?
そうですね。当時はゲームにめちゃくちゃはまっていたんですが、何かにはまるとそればっかりで。
Tad 追求するタイプ?
そこで1番になるまではやめません。
原田 なるほど、それが秘訣ですね。

ゲストが選んだ今回の一曲

B'z

「ultra soul」

「僕は本当に失敗が多くて、成功は一つしかないんです。あんまり成功することはなかったんですけれども、努力がなかなか実らない時や諦めそうになった時に、この曲をよく聴いていました。歌詞に、耐えることの辛さや厳しさがまとめられていて、サビのメロディも歌詞もパワフルで、辛い時にぐっと背中を押してくれる曲です」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『株式会社ダンボールワン』代表取締役社長、辻 俊宏さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 ダンボールって何気なくそばにある存在で、そんなに意識もしていなかったんですが、そのダンボール業界の革命児が石川にいたということにまずびっくりしたのと、うまくいかないときも発想力とあきらめない力で頑張ってこられたんだということをすごく感じました。Mitaniさんはいかがでしたか。
Tad 今ではユーザー数国内ナンバーワンのダンボール販売サイトになりましたが、最初の半年は1件7000円と、その1件を2件に、2件を3件にとだんだん増やしていって、10件、100件と今では10万社が検索して向こうから来てくれることになったわけですよね。ポケットティッシュに想を得た広告入りダンボールのお話もありましたが、いろんな工夫をされたんだと思います。「千里の道も一歩から」と言ったりもしますが、半年で一歩しか進めなかったら、本来なら諦めてもおかしくないですよね。新しい事業とか取り組みって、忍耐強さもすごく必要なものなんだなというふうに思いました。新しい事業に取り組まれている経営者の方もすごく多いと思うんですが、勇気をいただけるお話だったと思います。次回は、先ほどの4つのポイントのうちの最初のポイント、「短納期」について、頼んだら翌日には来るというサービスをどうやって実現されているのかということを中心に、おうかがいしたいと思います。

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