後編

三方よしのシェアリングプラットフォームで業界全体を活性化。

第39回放送

株式会社ダンボールワン 代表取締役社長

辻 俊宏さん

Profile

つじ・としひろ/1983年、石川県七尾市生まれ。2002年、短大在学中に『有限会社SSC』を設立、代表取締役に就任。2005年、サラリーマンを経験したいと思い、ハローワークでたまたま見つけた『能登紙器株式会社』(創業は1978年。後の『株式会社ダンボールワン』)に入社、ネット通販事業を立ち上げる。2016年、『株式会社ダンボールワン』(ダンボール、梱包材の製造・販売。2005年より通販サイト開設)代表取締役社長に就任。
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Tad 今回のゲストは前回に引き続き、『株式会社ダンボールワン』代表取締役社長、辻 俊宏さんです。前回、「ダンボールワン」というサービスについていろいろとうかがったんですが、改めてプロフィールを拝見しますと、『能登紙器株式会社』(註:『株式会社ダンボールワン』の前身)には元々ご縁があった訳じゃなくて、ハローワークで見つけて入社されて、その後に社長になられるんですよね。これは、「ダンボールワン」というサービスがやはりすごくヒットして、社長にまで登り詰めて行ったということなんでしょうか?
辻社長が、『株式会社ダンボールワン』の前身である『能登紙器会社』に入社したばかりの頃の写真。
そうですね、もちろん前回もお話ししたとおり、ここまでにすごくいろんな失敗もあり、その中でも1個2個の成功があって、ちょっとずつ成長していく中で、自然と役職の方もちょっとずつ上がって行き…という感じですね。コツコツと。
Tad 前回、4つのポイントについてお話ししていただいたんですが、「ダンボールワン」がなぜヒットできたか、1つは短納期、2番目に企画力、3番目に小ロットでの対応、つまり少ない数からでも対応できるということ、4番目がインターネットやITを駆使している、というお話でした。前回もすごくびっくりしたんですが、他の会社だと注文が入ってから6、7日かかるような商品が、『株式会社ダンボールワン』だったら翌日にはもう配送できる。なぜそんなことが可能なのかというところを、今回はぜひうかがいたいと思うんですが、実際、どうなんですか?
今お話しされたように、短納期、つまり今日注文して明日届くということであったり、例えば1箱から届くとか、インターネットで簡単に注文できるというようなことって、ぶっちゃけ大したことではないんだろうなと、リスナーの方にもそう思う方がいらっしゃるかと思います。というのも、例えばAmazonさんにしても、大手の通販会社でも、今日注文すると明日には、早ければその日中にだって届きますし、いろんなおもしろい企画をされている会社もあります。もっと簡単にスマホで注文できるところもありますし。ぶっちゃけ、うちは大したことやってないんです。ただ、一般の業界では常識なことでも、これはダンボール業界、特に製造業で考えるとものすごく「非常識」なことなんですね。普通7日かかるものが1日で届く、これだってこの業界では非常識で、でも他業界では常識です。僕らも一から何か革新的にサービスを作った訳ではなくて、他業界ではすっかり常識であることで、我々の業界ではまだ非常識であることを取り入れることで、革新的なサービスとして認知されていって、お客様が増えていく、というようなやり方でやってます。
Tad 具体的に取り組まれているのはどういうことなんでしょう? 
例えば、納期もそうですし、広告入りのダンボール、前回言ったような自社の広告が入ったダンボールも僕らの業界で言ったら非常識的なこと。普通は広告なんてダンボールに入ってないですから。
原田 ホームページを拝見した時に「早く届きますよ」というのと、普通のプランとか、ゆっくり待てる方とか、いくつか選択肢があって、それでお値段も違うみたいな感じだったんですが、これは対応がそれぞれ違う訳ですよね?
はい、そうですね。今までだと自社の工場で作って、梱包して、日本全国に届けるというサービスを展開していました。けれども、今まさに取り組んでいるのは…その前に、そもそもダンボール業界がすごく盛り上がってるイメージって、ありますか?
Tad 通販もすごく流行ってますから、ダンボールの消費も増えているのかなって思いますけども。
どんどん会社も新しく出てくるというイメージだと思うんですが、実際は、ダンボール業界は10年で約2割が廃業しています。それはなぜかと言うと、やはり大企業がすごく価格競争力を持っていて、なかなか中小企業が差別化できず、利益を出せずに廃業していくわけです。一方で、今我々がたまたま上手くいって、たくさんご注文いただいて、生産設備を整えていくこともできるんですが、今説明したように、日本全国の小さな工場がどんどん閉鎖しているわけです。つまり、設備が余っている。そこに空き時間がたくさんある。で、それを上手く我々の方で活かそうと…
Tad なるほど。他社さんの工場を自社のサービスの供給元にすると?
そうです。今我々はステップアップの段階で、製造業からいわゆるシェアリングプラットフォームに転換しているところですね。
原田 なるほど。
Tad そうすると「ダンボールワン」のサイトで注文を受けると、数年前ぐらいまでは自社工場でダンボールを作って配送していたのが、今は日本全国の稼働していない機械がいっぱいあったりするので、それを上手く活用していくと?
そうですね。イメージとしてはカーシェアリングが近いでしょうか。最近、都会の方ではものを所有するのではなくて共有するようになってきていますよね。工場もこれからは自社で、あるいは1社が設備投資するのではなくて、工場の空き時間を共有するというふうに、我々の方で今、業界全体を変えていこうという取り組みをしてます。
原田 空いてる工場がたまたま発注した方のお近くだったらよりいいですよね。送るのも安く済んだり、早く届いたり、そういうこともありますしね。
そうですね。我々は、日本全国10万社からご注文いただいており、それこそ北は北海道、南は沖縄まで、たくさんお客様がいらっしゃいますから、全国で100社のダンボール工場と提携させていただいています。例えば、納期のあるご注文に限っては、近くて、かつ空いてる工場に自動的に発注が行くようにしたり。工場側からすると、空いてる時間で生産するので、業務の稼働時間の平準化にもなりますし、お客様にとっても空き時間で低コストで作るので、すごくお安くできる。かつ、先ほどおっしゃったように送料を削ることができるというメリットがある。
Tad 前回うかがった4つのポイントのうち、短納期というのは、『株式会社ダンボールワン』が短納期をお求めのお客様だけに集中して、短納期でないお客様には全国100社の提携先の企業に作っていただく、そういうことになりますでしょうか?
おっしゃる通りです。
原田 そうなると、逆に工場の方も、お客さんもうれしいし、『株式会社ダンボールワン』としても助かるという、まさに三方良しという感じですね。また、みんながシェアすることで環境にも優しくなるんじゃないでしょうか。
同業者とも協業し、ダンボール業界全体の活性化に取り組む辻社長。
そうですね。近場の工場から発送することで、たしかに環境にももちろん優しいですし、一番いいのは、当社が一人勝ちするのではなくて、やはり業界全体を活性化するためにも、一社が設備を整えていくより、実際にある設備を使うことで、今まではすごく競争していた同業者ともこれからは協業していけますし、業界全体も活性化できます。さらに最終的にお客様にとってもすごくメリットがあるので、そういうふうに変えて行きたいなと。
Tad ある意味では大メーカーさんが対応しきれない範囲も、ダンボールのニーズに応えていくということでもあるし、中小ダンボールメーカーさんにとってもビジネスを継続していくという意味ではすごくありがたいお話ですよね。『株式会社ダンボールワン』経由でお仕事を繋いでいってくれるわけですし。
それと、地域や季節によって工場の忙しさが違うんです。例えば北陸ですと、海が近いので海産物系が冬になると忙しくなります。練り物屋さんなんかは年末は結構忙しいんですよ。一方で内陸地、例えば長野県などは冬が暇で夏が忙しいところもあります。地域によって、例えば冬は残業が24時間フル稼働、でも夏は5時間も動いてないとか…
原田 ダンボール業界にも繁忙期と閑散期があるってことですよね?
地域によって違います。
Tad その地域の差を埋めていくような?
そうですね、それもありますね。そうすると、人も採用しやすくて、計画も立てやすく、工場も設備投資をしやすいわけです。
Tad 地元のダンボールメーカーさんがある一定範囲のお客様からご注文をいただいている範囲だと、季節性によって結構変動してしまうんですね。それを『株式会社ダンボールワン』は、閑散期のダンボールメーカーさんにもお仕事を出されるようなこともされているわけですね。
はい。ほかの工場には「忙しい時は我々の仕事は別にしなくてよいです。暇な時だけ我々の仕事をやってください」とお伝えして。対等な関係です。
Tad その入り口が「ダンボールワン」であると。先ほどおっしゃったシェアリングプラットフォームになるわけですね?
そうです、工場のシェアリングですね。
Tad この先、ダンボール業界はどうなっていくんですか? もしくはどういう世界を目指していらっしゃるんですか?
例で挙げますと、最近、地元のダンボールメーカーさんの社長さんで60代の方が、息子さんに代を譲りたいと相談された時があったんです。でも、息子さんには「ダンボール業界ってこれからどうなるか分からない。やっぱり仕事も減ってくるかもしれない」と言われたそうです。ですが、当社の仕事を請け負っていただいたことで、すごく先が見えるようになったから、「息子が帰ってきてくれたよ、継いでくれたよ」という話を聞けたんですね。僕らみたいな若い世代がダンボール工場って聞くと、そんなにきれいなイメージはないんですが、どんどん仕事もあって、これから先が明るくなるように、一人勝ちではなくて、業界全体が活性化できるようなものを一緒になって作り上げられたらいいなと思いました。そして、最終的にお客様にその喜びを還元したい、そういう業界にしていけたらなっていう思いはあります。

ゲストが選んだ今回の一曲

ゆず

「栄光の架け橋」

「この曲も、前回紹介した曲と同様に、大きな失敗をするとよく聴きます。大きな失敗が続くとなかなか眠れない日もあるんです。まさに歌詞にも近いものがあって、この曲を聴くと、多くの方々に支えられながらここまで来れたと思えて、僕の人生が語られているのではないかと思うくらいなんですが、ぜひみなさんにも聴いてもらいたいです」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『株式会社ダンボールワン』代表取締役社長、辻 俊宏さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか。
原田 ダンボール界の革命児である辻さんですが、いろいろ苦労されて、今、会社をトップシェアにまで導かれました。今度はその発想力で業界全体を良くしていきたいという思いをお聞きして、素晴らしいなと思いました。Mitaniさんは、いかがでしたか?
Tad 通販が増えていくことでダンボール業界が活況、という勝手なイメージがありましたが、一部の大きなメーカーさんにお仕事が集中してる現実があるわけですね。『株式会社ダンボールワン』の取り組みで、自社の製造能力だけじゃなくて、日本全国に多数いらっしゃるダンボールメーカーさんを見ようとすると、こちらは地域ごとに季節性があったりして稼働時間が少なくて苦しい時もある。こういうところに着目されて、むしろそういう会社さんにお仕事を委託することによって自社も超短納期のお仕事に集中できるし、他のダンボールメーカーさんの稼働時間も増やしてあげられる。業界全体の活性化とおっしゃいましたが、資本の論理で一人が総取りするという時代ではなくて、全体で共存共栄できる道が開けるというのも、やっぱりインターネットの持つ力をフル活用されているからだと思います。ITを駆使して新しい挑戦をされていく『株式会社ダンボールワン』の今後にも大いに注目していきたいというふうに思いました。

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