前編

お客様に寄り添う「不動産×金融」でイノベーションを起こす。

第40回放送

エステックホールディングス株式会社

代表取締役社長 武部 勝さん

Profile

たけべ・まさる/1968年、石川県金沢市生まれ。1991年、名城大学理工学部卒業後、『大東建託株式会社』入社。1993年、父親が経営する会社に入社。2002年に独立し、『エステック株式会社(現・エステック不動産投資顧問株式会社)』を創業。2013年に『エステック不動産』、2019年に『エステックホールディングス株式会社』、『エステックアセットマネジメント株式会社』を設立。

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Tad 今回のゲストは「不動産×金融」、つまり不動産と金融を掛け合わせてイノベーションを起こしている方です。『エステックホールディングス株式会社』代表取締役社長、武部 勝さんです。「エステック」という社名にはどのような意味が込められているんですか?
武部 エステックの「エス」は「エステート(Estate)」、「テック」は「テクノロジー(Technology)」を意味しています。不動産に技術を入れたい、つまりモノづくりの心を込めた不動産ということで、「エステック」と付けさせていただきました。
原田 「不動産に技術を入れる」というのは具体的にはどういうことでしょうか?
武部 やはり、今までの不動産屋ですと、言葉にすると「売った・買った・借りた」ということが主流で、どちらかというと依頼者が「売りますよ・買いますよ・借りますよ」と、すでに答えを出している状態でした。私たちはその前の段階から相談にのらせていただいています。その方の将来、ご家族、地域、環境などいろんなことを考慮して、答えを導き出すのが我々「エステック」という会社の仕事であると思っています。
Tad つまり、普通の不動産屋とは違って、「貸したい・借りたい・売りたい・買いたい」のもっと前の段階の「この土地や建物をどうしようか?」というところから関わるということですね。
武部 そうですね。不動産があって、「この不動産をどうしよう?」という段階から私たちにご相談いただければ、売った方がいいのか、貸した方がいいのかといったことのデータを出して、お客様が比較検討したうえで、ご自分に適した判断をしていただく。そういうところからお付き合いさせていただくというのが当社の特徴です。
Tad 個人のお客さまもいらっしゃれば、企業も?
武部 どちらかというと、企業の方はやはり長期的な戦略で不動産を見ますので、私たちとしては個人のお客さまは大歓迎なのですが、結果として、企業の方が多いというのが現状です。
原田 今は親御さんが持っていた家をどうしようかなというお悩みを持つ方も、世の中に結構いらっしゃるんじゃないかと思います。
武部 県外の方から「今、石川県に不動産があるんだけど、誰も管理できない。どうしようかな?」というお悩みは少しずつ増えてきていますね。
原田 そうなんですね。個人の方でも気軽に相談してもよろしいのでしょうか?
武部 むしろ、お待ちしております(笑)
Tad 例えば企業の経営者の立場から見て、「そもそも工場をどのように建てようか」ですとか、「今持っているオフィスビルでいいのか」、といったことも相談の対象になるんでしょうか?
武部 例えば工場であれば、おそらく次の計画がある程度決まっていて、「土地は6000坪、場所はここで探してくれ」と言われて、それを探すのが通常の不動産屋の仕事かと思います。
原田 そうですね。
武部 我々の場合は、例えば生産ラインが1年後にパンクするという段階で「さてどうするか?」 というところから関わります。増設がいいのか、あるいは新設がいいのか、移転するならどういう場所がいいのか、水の確保はできるのか、通勤の導線は確保できるのか、そういったところから入らせていただきますので、通常の不動産屋の業務からいうと、おそらく1年から2年は早い段階で、お客様からご依頼をいただきます。
原田 ベストな選択をしていただけるように、ということでしょうか?
武部 はい。お客さまとともに計画を考える中で、常に選択肢を提供しながら話をしますので、適切にご判断いただきますと、その積み重ねの結果、移転、増設がスムーズにいく、ということになると思います。
Tad 企業のお悩みを解決されていらっしゃるわけですね。
武部 企業は悩んでいますね。工場を一つ移転するにしても、家から遠くなった、近くなった、電気代が高くなった、水が確保しにくくなったなど、いろんな悩みが出てきます。そういったことをすべて解決しながら、すべてが納得いく段階でOKを出していただくように進めます。
Tad 業種によって工場、オフィスなど形態がそれぞれ異なると思いますが、各業種やお客様のお仕事に合わせて対応されるわけですか?
武部 こういうことを調べるのがすごく楽しいです。
原田 どんなところが楽しいんでしょうか?
武部 工場やオフィスを扱わせていただく場合、例えば、コンピュータの会社で、データセンターなんかは第二電源まであるといいということになると、2か所の変電所から電気を引っ張ることによって停電に備えます。あるいは免震構造を実現しやすい地盤に建てるとか、そういったことが常に情報として蓄積されていきますので、似たような依頼があったときに即対応できるわけです。
原田 なるほど。
武部 当社の誇りは、企画によって常に勉強して、調べて、学んで、積み重ねているから次のお客さまに対してかなり応用が利くというところだと思います。おかげさまでご好評をいただいております。
Tad その中でも、日本初の様々な仕組みを作っていらっしゃるかと思いますが、松任駅前の物件で2008年に新しく官民一体開発型の不動産証券化スキームを開発されているということで「エステック」の存在感がとても大きくなったと思います。実際はどのような物件で、どういったお仕事をされたんでしょう?
武部 松任駅の前に、当時合併したばかりの白山市が土地を持っていました。ところが、すぐ整備をするということは予算上できない。土地はあるけど、お金はないという状況だったんです。そこで、我々は証券化事業をご提案しました。地域のお金で、地域で整備して、そこから上がってくる収益で地域に還元するという仕組みです。これを採用いただき、総額17億円をかけて、立体駐車場と1階・2階にスポーツクラブの『エイム』、そのほかに学習塾にも入っていただき、現在は100%フル稼働となっており、ご好評をいただいております。
石川県初の官民共同事業による駐車場の開発型証券化スキーム。通称「マットーレ」。
Tad 通常であれば、立体駐車場なんかもそうですが、建築物を建てるときにはお金を用意するか借りてくるしかないという感じですよね。そこで、証券化というのが利いてくるんですね。
武部 地元のこういう大型プロジェクトに対して、少しでも協力してあげたいという非常に志の高い企業というのは石川県内にいっぱいあります。そういった方々のお金を証券にかえて発行させていただいて、お求めいただいて、そのお金で施設を建てる。そこで上がってくる収益を配当するというのが、今回の松任の証券化事業です。
原田 いろいろな地元の企業が手を挙げて「一緒にやりましょう」ということでしょうか?
武部 そうです。
Tad 少しずつみんなのお金を持ち寄って投資をするような感じですね。
原田 それでもすごく儲かるような事ではなかったのではないでしょうか?
武部 我々の投資基準、投資指針というのは、とにかく安定させることです。地方でこういう証券事業をやろうとすると、出口で「通常は倍、あるいは3倍儲かりますよ」というのは東京でよくある話かと思いますが、田舎では決してそうではないんです。ですが月々を安定させる力は、北陸にはあります。そういうことから我々はどちらかというとキャピタルゲインよりもインカムゲインを重視するというスキームを組成したというところを評価していただいたと思っています。
Tad キャピタルゲインというと、例えば1千万円で買った金融商品が2千万円になったとすると、その差額のこと。インカムゲインというのは月々利子がいくら入ってくるとか、家賃がいくら入ってくる、そういった定期的な配当のことですね。
原田 なるほど。インカムゲインを重視してのことであれば投資する人にとっては安心感がありますね。
武部 そうですね。そして進出されるほとんどが地元の企業です。現在、スポーツクラブは『エイム』が経営していますが、石川県内の方ならみなさん、知っている名前ですよね。多くの方が恐らく何らかのご縁をお持ちの会社ですから、そういった意味でいうと、石川県に特化して非常に信用が高いですよね。地域の健康増進事業にも寄与されているとうかがっています。
Tad ファンドに投資するとか、証券・金融商品に投資すると聞くと、やっぱり2倍、3倍になって返ってきてほしいなというイメージがありますよね。でも、それとはちょっと違いますよね。
武部 全く違った形ですね。東京に行くと、同業の方から「ぬるいファンド」と言われました(笑)。「面白くないファンド」だと(笑)。でも私にとっては何よりの誉め言葉で「ありがとう」と言って帰ってきました。
Tad 1千万円なら1千万円出して、満期が来たらインカムゲインで、月々なり年額の配当が入ってくるけれども、1千万円はちゃんとそのまま残っているという、ある意味貯金・預金しているような感覚ですよね。でも銀行に預けても利子がそんなに付く時代じゃないですから、武部さんのビジネスで作られた証券によれば、配当が安定しているというわけですね。安定してさらに銀行よりもずっと条件がいい。預金者層や企業の方も値段が暴れる商品じゃなくて、ちゃんと安定したものにお金を出したい、そういう方がターゲットなのかなと。
武部 おっしゃる通りで、やはり安定志向が強いというところが北陸の特徴ですね。あともう一つ、自分のお金を出して配当ももらえて、かつ地域貢献にもなって、しかも目に見える施設であるという部分。東京の見たこともない大きなビルにお金を出すよりも、「あれ、俺の会社のお金の一部だよね?」と思えるのが真っ当なんだと思うんです。そういったことで言うと、目に見える施設ですから、投資家のみなさんからも「ちょっと古くなったんじゃない?」とか、「ちょっと直した方がいいんじゃない?」なんてお話もいただきます。目に見えるから言っていただけることです。
Tad 地域の参加というのも、すごく新しい観点だなって思います。
武部 北陸というのは、金融市場でいうと金融機関も多いですし、預金する県民性というところを見ても、私からすると「金融王国」なんですよね。その資金を効果的に、しかも安定的に運用することは、これからの北陸の生きる道の一つなんじゃないかなと思います。
Tad 一人一人の投資家が参加意識を持てるというのも、すごく良いことですよね。
証券化事業の講演や、ビジネスプレゼンテーションの審査員を務めることもある。

ゲストが選んだ今回の一曲

ZARD

「負けないで」

「昔からZARDが大好きでした。会社の私の部屋にZARDのDVDのジャケットを飾っています。私の方に向けて飾ってありますので、なんとなく疲れた時に見ると癒される、というぐらい好きです。特に坂井泉水さんの歌の作り方、言葉の選び方が好きですね。我々みたいに不動産と金融をまたぐ仕事をしている者にとって、言葉を適切に選ぶということは非常に大切なことです。もう一つは、お客様に対して、前から引っ張るような会話ではなく、後ろから優しく支えてあげるような言葉の選び方にすごく共感します。そういった部分を聴いているとホッとします」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『エステックホールディングス株式会社』代表取締役社長、武部 勝さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか。
原田 最初に「不動産×金融」とお聞きしたときに、「不動産で儲けましょう」というようなイメージしかなかったんですが、武部さんのすごく温かいお人柄が滲むお話を聞いて、ちょっとそれとは違うなということがよくわかりました。
Tad 「不動産×金融ってなんだろう?」と考えながらお聞きしていたんですが、単に金融商品のようなドライな感じではなくて、お客さまの業種によって異なる設備や仕事の中身も一緒に理解して、ご提案に繋げていくとか、お客さまがお持ちの不動産を「そもそもどうしたらいいのかわからない」というところからご一緒されるとか、松任の官民一体のプロジェクトのお話でも、その地域の人たちのお金を地域に投資して安定的に地域に還元するだとか、そもそも考え方にすごく温かみを感じました。お互いの顔が見える「不動産×金融」というのが武部さん流のお答えなのだろうなと思いました。投資家自身が投資した施設を実際に利用したり近くで見ているからこそ「修繕したらどう?」というご意見に繋がっているんだろうなと思いますし、東京のドライな不動産証券とはちょっと違うと感じました。

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