後編

石川県発の世界に誇れる「ドローンショー」を目指して。

第47回放送

株式会社ドローンショー

代表取締役 山本 雄貴さん

Profile

やまもと・ゆうき/1983年、石川県金沢市生まれ。東京工業大学の経営工学科を卒業後、2006年に三井住友銀行に入行。2007年に起業し独立。その後、会社の売却やM&Aに伴う移籍などを経験。2017年に金沢に戻る。2020年、『株式会社ドローンショー』(石川県金沢市泉野出町)設立。

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メンテナンスされたドローン
Tad 今回のゲストは前回に引き続き、『株式会社ドローンショー』代表取締役、山本雄貴さんです。ご経歴から今の山本さんの姿からは想像できませんが、最初はメガバンクに入社されたんですね。
山本 いまだに誰も信じないんですが、本当に銀行にいました(笑)。法人営業や、中小企業の融資の相談や、後半は部署移動があってM&Aのコアアドバイザリー業務みたいなことをやっていました。結構、お堅い感じでしたね。自分で言うのもなんですが、当時はどんなふうに働いていたのか思い出せないです。
Tad 入社の一年後に起業されているんですね!
山本 一年後に辞めようとは思っていなかったんですが、たまたま、大学で経営を学んだということもあって、事業計画を作ることが、ある意味で趣味みたいなことになっていたんです。平日には銀行の仕事をしながら、休日に「こんな事業がおもしろいんじゃないかな」と趣味で事業計画書を作っていました。それで、「これは自信がある」と思ったものを、ベンチャーキャピタリストに持ちこんでプレゼンするということをやっていたんです。
Tad ベンチャーキャピタリストというのは、ベンチャー企業に投資をするのが本業の方ですね。
山本 そうです。その過程で、事業に共感し、出資していただける投資家の方に出会って、銀行を辞めたという経緯です。
原田 一年で…。勇気がいりますよね。
山本 めちゃくちゃ勇気がいりました。前回の選曲(Aqua Timez「決意の朝に」)のエピソードでも触れましたが、一週間くらい「今日こそは辞表を出すぞ!」と思って出社するんですがなかなかできなくて、なんとか言い出せたという感じです。
Tad 最初のベンチャーっていうのは、どういう事業をされたんですか?
山本 13年も前ですが、当時はスマホが当然まだ普及してなくて、モバイルサービスもほとんど発展していなかったという時代で、パソコンのインターネットサービスで事業を立ち上げるのがあたりまえの世界だったんですが、そういう状況で、ドキュメントファイルと呼ばれているものをYouTubeのようにだれでも投稿できて、オンラインで知識を共有しあう図書館を作ろうと。「オンライン図書館」と呼んでいたんですが、そういったサービスを立ち上げました。それが最初です。
Tad それはどんな人に使われていたんですか?
山本 最初の目的としては、大学で研究していた時に、論文っていうのはネット上にPDFファイルで存在するんですが、それを一回ずつダウンロードして、ソフトを立ち上げてという作業に3分、5分とかかるんですよ、今では考えられないですが。論文をたくさん読みたいのに、立ち上げる待ち時間が面倒だなと思っていて、それを解決しようというのが最初のきっかけだったんですよ。
原田 なるほど。
山本 ダウンロードする必要はなくて、中身を閲覧できればいいということで、当時流行っていた技術を使って、「ダウンロード不要で、ウェブサイト上で論文などのPDFの中身を閲覧できます」というようなものから始めたんですが…。ここからは失敗談になるんですが、結局、初期のYouTubeと同じで、違法なコンテンツというのがすごく多くなってきたんですよ。具体的にいうと、漫画のような著作権が絡むようなものがどんどんアップロードされていったんです。当然、削除対応などの管理をするんですが、マンパワーで追いつけないぐらいどんどん投稿されていって、結果としては、違法な漫画サイトみたいなどうしようもない状態になってしまって、出版社やいろんな方々にご迷惑をおかけしてしまいました。
Tad 最初の目的とは全然違う方向に進んでしまったんですね。
山本 全然違いますね。やっぱりインターネットに対する知識が浅かったということなんですが、お客さんの顔も見えないですし、悪いことをする人がどんどん増えていったわけです。それをしっかり想定して、管理体制・運営体制を予め整えておくべきだったなという思いはあります。
Tad その後は携帯ゲームの事業をなさっていますね。
山本 経緯としては・・・運よく違法漫画サイトになってしまったそのサイトを最終的に中国の検索エンジン『Baidu』という会社に売却できたんです。
Tad これは、中国の方からするとGoogleが買収したくらいの感覚ですよね。
山本 当時はそうですね。なので、今このサービスサイトがなくなっているわけではなくて、名前が変わって、漢字で「百度文庫」で検索すると上がってくるんですが、それを作ったのは僕です。
原田 あるんですね、今も。
山本 はい。その後に、会社を売却したわけではなくて事業を売却したので、次に何しようと考えていました。最初に投資してくれた投資家さんの他の投資先の会社で、「これから携帯ゲームをやっていく」という会社があったんです。ちょうどブームが来そう、というところもあって、この会社と合併して、ゲーム事業に振り切ろうということになりました。
Tad なるほど、社員の方やエンジニアの方はそのままゲームのほうに?
山本 そうですね。社名が変わって、ゲーム開発のほうに携わっていましたね。当時はまだ携帯を使って遊べるコンテンツがゲームくらいしかなかったんですよね。それからどんどん、iPhoneやスマホをみなさんが持つようになっていって、アプリを調べてみるとやっぱりゲームくらいしかなかったので、娯楽として、サービスが広がっていったというような感じですね。
Tad ゲーム事業に携わられた後、2017年に石川県にお戻りになられたんですよね?この会社を退社されたんですか?
山本 退社は正確に言うとしていなくて、移住する前に所属していたインターネット系のベンチャー企業があるんですが、そこが2016年に上場したんです。『株式会社オーケストラホールディングス』と名前が変わっているんですが、そこで僕はある意味、社内ベンチャーみたいな感じでアプリ事業部というのを立ち上げたんですね。幸運なことにヒット作が生まれまして、売り上げを伸ばして、何とか上場まで持っていけました。その後に組織改編があって、アプリ事業部が子会社になったんです。そのタイミングで…これは僕の悪い癖なんですが、安定してきたなっていうのを感じて、もっと何かおもしろい取り組みをしてみようということで、東京の会社ってリモートワークで経営できるんじゃないかと考えたんですよ。それで、子会社の代表をやってくれというオファーが来たんですが、引き受ける代わりに「リモートでいいですか?」って聞いてみたら以外にも通ってしまったので、ならばやってみようということで。
Tad そういった意味合いでの「お引越し」だったんですね。
山本 今ではリモートワークがあたりまえになっていますが、実は3年前からリモートワークに慣れていたということもあって、コロナ禍といってもそんなに働き方は変わってないんです。世の中ってリモートワークするための便利なツールっていっぱいあるんですよ。ただ、それを使いこなせていないっていうのが現状なんですが、それに関して言えば3年前から東京で働いている社員と一緒の空間にいるような演出をするにはどうしたらいいのかなって考えた場合に、それをうまくやるようなコンテンツ・インターネットサービスって存在するんですよね。そういったものをどんどんトライ&エラーで使ってみて、働きやすい環境になるようにリモートワークの中で使っていったんです。
Tad 山本さん、もしかすると2023年に生きているかもしれない。すごいですよね、3年も前にそんな新しい働き方を見出すなんて。金沢に戻られて、そこからまた自分で起業されたということですよね。
山本 そもそもなぜ金沢に戻ってきたかと言いますと、やっぱり東京でスタートアップを立ち上げたという経験もあって、そこで知り合ったベンチャー仲間も当然東京にいて、それに集まるような形で投資家さんも、それを実際に使って事業を起こすのも東京で、どんどん何もかもが東京に集約されていっているような感じがしたんですよ。ベンチャーブームと言われながらも、やっぱり相対的に地方ってどんどんおもしろくないものになっていくのかなっていう危機感を覚えました。
僕もこれまで幸いなことにインターネットのビジネスだったので、スタートアップの頃ってほとんど引きこもりだったんですよ。ひたすらサービス開発に投資して、という感じで別に人と会う必要もないですし。であれば、こういったスタイルならそもそも東京である必要がないなっていうふうに思ったんですよね。それで、ある種の実験と言いますか、石川県で事業を立ち上げてみたら、またいろんな方たちがそれを真似して、またここから地方が少しずつ活性化していくんじゃないかなと思いまして、それに挑戦してみた、といったような感じです。
Tad 前回もお話があったかと思うんですが、ドローンは規制が多い分、都市部ではなかなか自由に扱えないということですが、地方はある程度、自由に飛ばせるものですか?
山本 そこがこのテーマを選んだ一つの理由ではあるんですが、先ほどお伝えした通り、投資のお金も優秀な人材も、すべて大都市圏に集まっているということで、地方で事業を起こしたとしても、それが面白いということになったら、簡単に真似される。東京のほうがアドバンテージのある事業テーマって多いんですよ。そんな中、ドローンって規制が厳しいというのと、人口が密集しているところはそもそも危ないので、東京ではドローンビジネスを起こしにくいという現状が日本にはあって、そこがチャンスだなって思ったんですよね。
Tad 以前、この番組に来てくださったベンチャー企業の社長さんが、東京においでよ、って投資家の方々からお話をいただくっていう話を聞いたんですが、今はそういうふうには言われないんですか?
山本 数年前までは、「なんで石川にいるの?」みたいな話をされましたが、最近ではあまりないですね。今の状況もあると思いますが、オフィスに出社するのが当たり前じゃなくなってきている時代に、東京だからどう、といったことはあんまりなくなってきたかもしれないですね。
原田 山本さんは地方、石川県の良さをどういうところに感じていますか?
山本 やっぱり、圧倒的に生活コストが安いです。家賃で考えても半分くらいの感覚ですし、スタートアップで立ち上げたときって当然、元手の資金もそんなに潤沢にはないので、それを使い切るまでに事業を立ち上げるかどうかの勝負なんです。そう考えると、普段の、自分も含めて従業員の生活コストというのはできるだけ安くした方が黒字化しやすいです。そういったところで力強い事業を作り出すことができれば、逆に今、生活コストが安いってところも、もうちょっと給与水準を上げていけばいい。例えば東京と同じくらいの給与水準であれば石川県だとかなりいい生活ができると思うんですよ。そういうところに幸せを感じてもらえればなと思っているんです。
Tad 石川県は仲間を集めることがしやすい地域ですか?
山本 東京と比べると仲間を集めるということについては正直そんなに簡単じゃないです。その反面、目を凝らしてちゃんと探せば優秀な人ってすごくたくさんいらっしゃるんですよね。そういう人たちの中には、新しいこととか、わくわくすることを始めたいけど、そういうテーマがないとか、自分でやるのはちょっと、という人たちが多かったりはします。そういう人たちってきっかけさえあれば…僕と一緒に立ち上げた共同パートナーのエンジニアもまさにそうなんですが、きっかけさえあれば、もともとのスキルレベルではすごく優秀なので、ものすごい力を発揮します。
Tad 今後の『株式会社ドローンショー』の活動が楽しみですね!
山本 ドローン業界をもっと明るくしたいです!
機体製造現場(技術者とプロダクトデザイナーが議論中)
3Dプリンターを用いた機体の部品製造の様子

ゲストが選んだ今回の一曲

浜崎あゆみ

「Startin’」

「当然、青春時代によく聴いていた曲なんですが、3年前に金沢に戻ってきて、当時、禅にはまったんですよ。鈴木大拙とか、禅哲学とか、そういった思想に感銘を受けて、一時期毎日のように図書館に通って、鈴木大拙の本を読み漁っていました。その思想がとても僕に合っているというか、すごく自由に生きられるきっかけになったなと思っていて。そんなときに、たまたま浜崎あゆみさんの曲が耳に入ってきて、今まで歌詞をよく聴いてなかったんですが、よくよく聴いたら、禅の教えそのままだなと思ったんです。そういう驚きがあり、選ばせていただきました」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回は前回に引き続き、ゲストに『株式会社ドローンショー』代表取締役社長、山本 雄貴さんをお迎えしましたけれども、原田さん、いかがでしたか。
原田 山本さんはなんだか生き生きとお話されていて、お仕事のお話をお聞きしているというより、生き方そのものを語られているような、そんな印象でした。
Tad 楽しそうでしたよね!会社を作って成功させて、大企業にM&Aされるというのを、起業家とか投資家の方は「イグジットする」って言うんです。出口を意味する「イグジット」。山本さんは、事業の売却とか、会社のM&Aをいくつも成功させてきましたが、起業家という道からは全然イグジットしていない。むしろどんどんスケールが大きくなっている。これまでの集大成として山本さんが選んだ道というのは、生まれ故郷、石川県で世界に誇れる一大産業を作ること。『株式会社ドローンショー』という新しい入口に立つ山本さんの下に、多くの仲間や支援者がいっぱい集まるんだろうな、そんなふうに思いました。

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