前編
ホテル日航らしさを示す行動指針「Origin8」。
第161回放送
ホテル日航金沢 総支配人(※オンエア当時の役職。2024年9月現在はグランドニッコー東京ベイ 舞浜の総支配人)
島田裕次さん

Profile
1963年、千葉県生まれ。1986年、『日本航空開発株式会社』(現・『株式会社オークラ ニッコー ホテルマネジメント』)に入社。1999年、『ホテル日航メキシコ』の宿泊部長に就任。2002年、『日本航空開発株式会社』のグランドマネージメント本部ブランド企画部課長に就任し、福岡、千歳、台場などで総支配人などを歴任。本部の役職を務め、2018年、『ホテル日航金沢』(開業は1994年。金沢市本町。地上130メートル、北陸随一の高さを誇る30階建ての高層ラグジュアリーホテル)の総支配人として金沢に赴任。2022年、『株式会社オークラ ニッコー ホテルマネジメント』の常務執行役員に就任。
Tad | 今回のゲストは『ホテル日航金沢』総支配人の島田 裕次さんです。たびたび仕事でもお世話になりまして、本当にありがとうございます。島田さん、とってもお声がダンディで。 |
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原田 | そうなんですよ。とても響く声で。 |
島田 | たまに言われることがありますが、自分の声ってなかなかわからないので、不思議な気分です。 |
Tad | ついにMROでも「ジェットストリーム」が始まったかというくらいですよ。 |
島田 | 日航ならではということで(笑)。 |
Tad | (笑)。ところで島田さんにまずうかがいたいんですが、総支配人というのは、いったいどんなお仕事をなさるんでしょうか? |
島田 | 非常に難しい質問なんですが、よくGM(General Manager)と呼ばれまして、実際にやっている仕事は、野球で言いますと監督にあたります。選手、つまりは社員のコンディションに問題がないかを確認し、ホテルの稼働率がどのくらいになっていて、どれだけのお客様をお迎えしないといけないのか、宴会場ではどんなイベントが行われているのか、といった、いわゆるその日のゲームを確認しながら、適材適所に人材を配置して、それぞれに対応していきます。簡単に言うとそんな感じになりますが、実際には社員からどう見られているのかはわかりません。自分では何もしてないんじゃないかという感じがしないでもないですが(笑)。 |
Tad | いやいや、そんなことはないと思いますが(笑)、野球にたとえて話してくださいましたが、ホテルにはどういうポジションがあるんでしょうか? |
島田 | 様々な仕事があります。たとえば宿泊ですと、フロントでチェックイン、チェックアウトをしている担当者もいれば、荷物運びをお手伝いするようなベルボーイ、ベルガールがいますし、レストランでは料理人、ケーキを作る職人、パンを作る職人、それから宴会場でサービスをするウエイター、ウエイトレスなど多岐に亘ります。もちろん普通の会社ですので人事、総務、経理を担当している者もいれば、設備をいつも最適な状態に保ち、管理する施設担当部門、家具やベッドなどを整える大工仕事をするようなスタッフもおります。 |

原田 | 島田さんご自身のキャリアのスタートはどのポジションだったのでしょう? |
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島田 | 私が仕事を始めた1年目はベルボーイからでした。ベルボーイとして頑張りまして、みなさまを正面玄関でお迎えするドアマンという仕事もさせていただきました。やや派手なユニフォームを着て、車から見てもわかりやすいように誘導する立場なんですが、そこに立っていると、まるでホテルの主になったかのような気分でした。 |
原田 | まさに「ホテルの顔」ですよね。 |
Tad | そんなふうにかつては島田さんもホテルの一スタッフであったということですが、島田さんにとって『ホテル日航金沢』はどんなホテルですか? |
島田 | 開業してもう28年が経ちます。どこから見てもわかる街のシンボル的なホテルでございますので、国内、海外を含めて多くのお客様をお迎えできる最高の場所であることを認知していただこうと、開業以来ずっとそうした思いで続いてきたホテルです。 |

原田 | なるほど。みなさん、折に触れて利用されていますよね。もちろん県内に住んでいる私でも、お祝いのランチでママ友と出かける機会もあります。地元のみなさんからもすごく愛されているんじゃないかなと思いますが、感触としてはいかがですか? |
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島田 | 旅行客の方だけでなく、地元の方にももちろん愛されるホテルでありたいと思います。金沢のみなさんは伝統をとても大切にしていらっしゃいますが、私たちは常にいろんなことにチャレンジしていますので、海外のものや新しいものもみなさんに提供し、フレッシュな感覚で楽しんでいただくことを心がけております。 |
Tad | 宴会場もいろんな使い方がありますよね。リスナーのみなさんは結婚式なんかで『ホテル日航金沢』に行かれるようなこともあると思いますし、業界の集まりなどで利用されることも多いですよね。宿泊の方でも海外や県外の方もいますし、いろんな業界の人達がその時々のテーマに沿っていらっしゃる。それぞれに求められているものは違うかもしれないですよね。 |
島田 | そうですね。ブライダルでしたら、我々の理想としては、ここで結婚式をしたらそれで終わり、ということではなく、そこからずっとみなさんとお付き合いを続けたいと思っています。家族の記念日にもご利用いただきたいですし、究極は、結婚式を挙げられたご夫婦のお子様が大きくなって、またここで結婚式を挙げていただけると、とてもうれしいですね。また、宿泊で国内外からいろんな形でご利用いただく時に、マニュアルに縛られたサービスだけではなく、金沢らしさやご当地ならではのテイストもしっかりと打ち出したいとも思っています。地元のスタッフがほとんどですので、それぞれが考えて、金沢らしいサービスを目指しています。料理については、当然ですが地産地消で、海外からいらっしゃるお客様にも地元のお客様にも楽しんでいただきたいと思っています。 |
Tad | 総支配人としては「どこを切っても『ホテル日航金沢』らしいね」とお客様に思っていただくのもお仕事だと思いますが、それはどんなふうに実現されているんでしょうか? |
島田 |
社内では3か月に1度、社員集会をしています。24時間営業の会社なので3グループぐらいに分けて、いま我々がどこにいて、お客様からの評価はどのくらいあるのか、どういう形で評価を受けているのか、業績としてどのくらいのレベルに来ているのか、どんな形でビジネスが進んでいるのかということをしっかりと把握してもらうようにしています。 また年に1度、従業員満足度調査、いわゆるESを実施し、その結果も包み隠さず社員に伝えて、その時々の善し悪しや、職場を長く続けたい気持ちの上下などを共有し、自分たちの職場を少しでもいい形に持っていこうと努力しています。この時に、我々の目指すものは何かということをしっかりと定めます。これを数か月おきに実施していまして、本当はもっと頻度を上げたいんですが、社員が全員集まってしまうと現場が総崩れになってしまうので、なかなか難しいところではあります。 |
Tad | ということは、島田さんは3回…… |
島田 | そうですね。3回同じことをやります。だんだんレベルが上がってきて、言っていることがきつくなったり、「こんなことはさっき言ってなかったのに」となったりすることがよくあります(笑)。 |
原田 | 日本各地にも、世界中にも日航ホテルがあるわけですが、「日航だから安心できるよね」という感覚を持っていらっしゃる方が多いと思います。そうした「日航らしさ」というのは、どんなふうに培っていらっしゃるのでしょうか? |
島田 |
以前、『ホテル日航メキシコ』に通算8年ほど勤務していました。勤務が終わり、日本の本部に戻ってきたときに、もっと高いレベルでサービスを提供したいという思いがありました。そこで、我々が提供する価値とは何なのか、お客様に感じてほしいブランド価値とは一体何か、サービスを向上するための基軸とは何か、ということを2年くらい会議室にこもって研究していました。その当時に作ったのが「Origin8活動」というものになりまして、我々の行動指針を定めることができました。 実は今でも使っているんですが、中国、アメリカ、東南アジアなどに我々のホテルがありますので、サービスの軸とかいいサービスとは何かというのはマニュアルでは書けるんですが、マニュアル以上のサービスをしようとしたときに、やはり社員の心持ちとはどうあるべきかについて行動指針を作らないとなかなか統一感のあるサービスというものはできません。そのために行動指針を定めているわけです。 |
Tad | 「Origin8」というと、8つの哲学が存在するということですね。 |
島田 | 我々の行動指針には「笑顔」「感性」「楽しむ心」「連携」「情報」「点検」「衛生」「安全」という8つの価値軸を設けて、それぞれにおいて社員に「こういう行動をしてください」という基軸を作っています。これを日本語・英語・中国語など多言語に翻訳し、それを基に全世界のスタッフに行動してもらっています。 |
Tad | それを島田さんが作られたわけですよね? |
島田 | 私だけということではなく、チームで作りましたというふうにしたいんですが。 |
原田 | (笑) |

Tad | 2年間にわたってこうした指針を定義するというのは、きっとすごく難しいプロセスだったのではないでしょうか。 |
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島田 | 当時、ブランドマネージメント課の課長をしておりまして、いつも会議室にこもって呪文のようなことをいろいろ唱えていました。それなのに「あの課長は何も成果物を出してこない」と言われて非常に厳しい時期でしたが、追い込まれて何か形にしようと必死になったらなんとなく形になりまして、それなりのレベルのものができたのですが、まさか現在もまだ使われているとは、当時思ってもみませんでした。2002年でしたが、せいぜい賞味期限は5年くらいかなと思っていたんです。あれから20年経っていますが、同じものをチェーン全体で使い続けています。 |
Tad | それだけ普遍的なものになったということですね。 |
島田 | 誰かに筆を入れてほしいと思っていたんですが、誰もそんな勇気のある人がいないようですね(笑)。 |
原田 | 手元の資料を見せていただいておりますが、「笑顔」の項目には「笑顔には心の距離を縮める魔法の力があります」というフレーズがあります。ふわっとイメージが浮かびやすいような言葉で、いろいろなことが書かれていますね。きっと全世界のスタッフの方がいつ見ても「あぁ、そういうことか」とわかるからこそ、変える必要がなかったんじゃないかなと思います。 |
島田 | 本当は「魔法の力」という曖昧な言葉でごまかさないで、作り手としてはもうちょっと適切な表現を考えたかったんですが、締め切りというものもあって間に合いませんでした。「もうしょうがないか」と、まさしく自分に魔法をかけて納得しました(笑)。 |
ゲストが選んだ今回の一曲
Domenico Modugno
「Volare」
「父が国際線のパイロットをやっていまして、実は17歳から18歳という大変多感な時期に、家族でイタリアに住んでいました。当時、イタリアでホームステイもさせていただいて、ステイ先の奥様がよく大きな声でカンツォーネを歌っていました。そのうちの一つがこの曲で、青春時代を思い出します」(島田)

トークを終えてAfter talk


Tad | 今回はゲストに『ホテル日航金沢』総支配人の島田 裕次さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか。 |
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原田 | 島田さんの声にうっとりする時間でもありましたけれども(笑)、どこの『ホテル日航』に行っても安定して同じサービスが受けられて、安心して宿泊できますよね。そのためのスタッフの方の心の土台づくりのようなところに携わられた方が、金沢で総支配人をされていらっしゃるというのは驚きでした。 |
Tad |
すごいことですよね。8つの指針「Origin8活動」については私もグッときたフレーズがあります。たとえば「お客様の数だけ出会いがあります。お客様への接し方も決してひと通りではありません。そこにお客様がいるかぎり、ルーティンワークはありえないです」という文章。日々の仕事に常に新しいアイディアを取り入れていきましょうということが書いてあるわけですが、この文章自体がそもそもマニュアル的ではないですよね。 マニュアルというのは「この場面でこういう手順で業務を行う」という標準を定めたものですが、一人ひとりがこれを見て、「自分は何をしよう」と考え、日々新しいこともやっていく、そういう指針を表しているわけですよね。「働く」というのは決して歯車になることじゃないですし、何をすれば、何を考えていれば心を込めた仕事や生き方をしていると言えるのだろうか――そのよりどころを一人ひとりが持てる、そういう会社やそういう社会であることが大事なのかなと、すごく感じ入りました。 |